「アキレスと亀」を観る
2008年 09月 17日
世界のキタノ作品会心の一作、と前評判の高い「アキレスと亀」を観てきました。
監督一連の作品の大きな特徴といわれる美しい映像“キタノブルー”や、劇中たびたび登場人物の見舞われる「死」の連続。あまり監督作品を多く観ていない私でも、全編に流れる静かで不気味で、でも穏やかな世界観を十分に感じることが出来ました。
↓ここからネタばれあり、アートと笑いの刹那感は文字に出来ず。
真知寿(まちす)は群馬のお金持ち・倉持家の一人息子。家は大きな養蚕事業等を営んでおり、その名声・財力はその土地で「縦を横、赤を白。」にする程のもの。父(中尾彬)は西洋贔屓で珈琲を好み、売れない画家のパトロンを気取る。しかし蚕が全滅した事で一挙に没落、瞬く間に真知寿の人生は変わっていく。
ビートたけしが演じる真知寿がよく宣伝フィルムで流れているが、子供時分の真知寿の話は結構長い。今後の人生において、かなり重要な部分だからか。この幼少時代風景がとても美しい。昔の話・・・だからか、現代(たけしの真知寿)よりいくらか黄みがかかった色合いの映像に思えた。
画家を可愛がる父の影響と、何もかも容認していた周りの環境から真知寿は、画ばかり描いているし描かされてる。というか、それしか出来ないしそれしかない。
そんなあどけないが不憫で、やるせない真知寿くんをこれがデビュー作という新星・吉岡澪皇(よしおかれお)君が透明感のある演技で紙一重な感じをよく出している。
‘紙一重’と書くと、いろいろ物議を醸し出しそうだが、芸術家にはある意味そういうことが多いと思っている。またそうでもないと、何かを創り出す能力は爆発しないのではないか。
真知寿はその後、澪皇くん→柳憂怜(ゆうれいが漢字表記になっていてビックリ)→たけし、と成長につれ役者が変わります。
その度々に身近な誰かの「死」を目の当たりにする。それが心に大きく影響し、画への没頭と情熱に反して精神は偏っていったように思えた。
ゴッホの病院通いは有名な話だし、ピカソが大きな戦争に心を痛め描いたのは「ゲルニカ」。ユトリロはアルコールに溺れ、シャガールは妻の死に逢い、近所の火事を消そうとせず眺め描いたといわれるセザンヌ。世の芸術家は繊細でもろく、人生が精神が作風に影響している。青年になった真知寿は口が重たく、人生の生き方が下手なようだ。しかしそんな自分を理解してくれる彼女・幸子(麻生久美子)と出会い、結婚する。
そういう感じで鑑賞していたので、真知寿がたけしになった時点での饒舌な(TVでついちゃったイメージが若干払拭できず)ただの‘変なおじさん’っぽかったのがちょっと違和感を感じ残念でした。その反対に、幸子を麻生久美子→樋口可南子と繋いだのはピッタリ!しゃべり方も似ている気がした。
その他の配役で気になったのが、娘役を演じた徳永えりちゃん。そう出番が多かった訳でもなく始終不機嫌な表情で出ていた(親があれじゃぁね)彼女、唯一援助交際の相手にむけた笑顔(営業スマイル?)が妙に印象に残り、今後に興味が沸きました。最近活躍の広末ちゃんや山口紗弥加ちゃんと同じ事務所みたいだし、随分良い作品の脇で頑張っている様子。昨今の同世代女優に比べ、そう派手でもない印象の彼女は、手堅い着実な女優さんになっていくのでは、と期待します。
劇中の絵画作品の多くが、たけし自身の作画と聞いてやはり彼の多才ぶりに感心した。しかしながら、この作品自体から何を感じ取ればいいのか、ちょっと考えちゃう感じで正直好みではなかったです。沢山出ていた芸人(俳優として)も、笑いを取りたかったのか、シュール狙いなのか、中途半端な感じがしました。
今回の主人公の名前の由来かと思われるアンリ・マティスが、時代時代でかなり作風が変わったと言われるように、真知寿も悪徳画商の作評に振り回されいろんな画を描く。
やることなすことメチャメチャで、普通の平凡な平和と道徳がよいと思っていると、ビックリさせられる。しかしそんな彼に着いていっているのが幸子。
どんな生き方・人生でも理解者がいれば一番幸せってことだろうか。
「アキレスと亀」@映画生活
監督一連の作品の大きな特徴といわれる美しい映像“キタノブルー”や、劇中たびたび登場人物の見舞われる「死」の連続。あまり監督作品を多く観ていない私でも、全編に流れる静かで不気味で、でも穏やかな世界観を十分に感じることが出来ました。
↓ここからネタばれあり、アートと笑いの刹那感は文字に出来ず。
真知寿(まちす)は群馬のお金持ち・倉持家の一人息子。家は大きな養蚕事業等を営んでおり、その名声・財力はその土地で「縦を横、赤を白。」にする程のもの。父(中尾彬)は西洋贔屓で珈琲を好み、売れない画家のパトロンを気取る。しかし蚕が全滅した事で一挙に没落、瞬く間に真知寿の人生は変わっていく。
ビートたけしが演じる真知寿がよく宣伝フィルムで流れているが、子供時分の真知寿の話は結構長い。今後の人生において、かなり重要な部分だからか。この幼少時代風景がとても美しい。昔の話・・・だからか、現代(たけしの真知寿)よりいくらか黄みがかかった色合いの映像に思えた。
画家を可愛がる父の影響と、何もかも容認していた周りの環境から真知寿は、画ばかり描いているし描かされてる。というか、それしか出来ないしそれしかない。
そんなあどけないが不憫で、やるせない真知寿くんをこれがデビュー作という新星・吉岡澪皇(よしおかれお)君が透明感のある演技で紙一重な感じをよく出している。
‘紙一重’と書くと、いろいろ物議を醸し出しそうだが、芸術家にはある意味そういうことが多いと思っている。またそうでもないと、何かを創り出す能力は爆発しないのではないか。
真知寿はその後、澪皇くん→柳憂怜(ゆうれいが漢字表記になっていてビックリ)→たけし、と成長につれ役者が変わります。
その度々に身近な誰かの「死」を目の当たりにする。それが心に大きく影響し、画への没頭と情熱に反して精神は偏っていったように思えた。
ゴッホの病院通いは有名な話だし、ピカソが大きな戦争に心を痛め描いたのは「ゲルニカ」。ユトリロはアルコールに溺れ、シャガールは妻の死に逢い、近所の火事を消そうとせず眺め描いたといわれるセザンヌ。世の芸術家は繊細でもろく、人生が精神が作風に影響している。青年になった真知寿は口が重たく、人生の生き方が下手なようだ。しかしそんな自分を理解してくれる彼女・幸子(麻生久美子)と出会い、結婚する。
そういう感じで鑑賞していたので、真知寿がたけしになった時点での饒舌な(TVでついちゃったイメージが若干払拭できず)ただの‘変なおじさん’っぽかったのがちょっと違和感を感じ残念でした。その反対に、幸子を麻生久美子→樋口可南子と繋いだのはピッタリ!しゃべり方も似ている気がした。
その他の配役で気になったのが、娘役を演じた徳永えりちゃん。そう出番が多かった訳でもなく始終不機嫌な表情で出ていた(親があれじゃぁね)彼女、唯一援助交際の相手にむけた笑顔(営業スマイル?)が妙に印象に残り、今後に興味が沸きました。最近活躍の広末ちゃんや山口紗弥加ちゃんと同じ事務所みたいだし、随分良い作品の脇で頑張っている様子。昨今の同世代女優に比べ、そう派手でもない印象の彼女は、手堅い着実な女優さんになっていくのでは、と期待します。
劇中の絵画作品の多くが、たけし自身の作画と聞いてやはり彼の多才ぶりに感心した。しかしながら、この作品自体から何を感じ取ればいいのか、ちょっと考えちゃう感じで正直好みではなかったです。沢山出ていた芸人(俳優として)も、笑いを取りたかったのか、シュール狙いなのか、中途半端な感じがしました。
今回の主人公の名前の由来かと思われるアンリ・マティスが、時代時代でかなり作風が変わったと言われるように、真知寿も悪徳画商の作評に振り回されいろんな画を描く。
やることなすことメチャメチャで、普通の平凡な平和と道徳がよいと思っていると、ビックリさせられる。しかしそんな彼に着いていっているのが幸子。
どんな生き方・人生でも理解者がいれば一番幸せってことだろうか。
「アキレスと亀」@映画生活
by bijomaru0330am | 2008-09-17 23:45 | 試写会