「母べえ」を観る
2007年 12月 26日
流石、山田洋次監督作品。映像が美しく、無駄がない。独特の清々しくも品のある、吉永小百合・主演「母べえ」を観てきました。
参加した試写会はいつものそれと違って、平均年齢がかなり高い感じ。正直なんで呼ばれたかちょっと不思議な(!!)感じもするくらい。上映中の空気も以前「鉄道員(ぽっぽや)」を見た時に感じた雰囲気と同じでした。
同じといえば、邦画作品で主役に品位やけれん味のない演技を求める時、俳優=高倉健さん、女優=吉永小百合さん、って方程式が成り立って久しい。いい加減に後続の、いや追い抜く位の俳優さんが出てこないと(男優はまだしも)日本映画の未来は暗いかも。
(小百合さんだっていつまでも今の美しさは保てまい。)
↓ここからネタばれ少々あり。
昭和15年、東京。戦争が国家の一大事となっている世の中、野上家は貧しいながらも仲良しで、笑いの絶えない家族。インテリで大学で教鞭を執っていた事もある父・滋(坂東三津五郎)が思想犯として特高に検挙された。残されたのは母・佳代(吉永小百合)、年端のいかない娘二人。家族を案じた滋の教え子山崎(浅田忠信)、滋の妹で美大に通う久子(壇れい)は家族と苦楽を共にしかけがえのない日々を送る。しかし、時代はそんな家族には辛く厳しい。
お母さんを「母べえ(かあべえ)」お父さんを「父べえ(とうべえ)」(子供は○○←名前の略+べえ)と呼びあう現代的な家庭の、寒さに弱いヒョロっとした感じのお父さんを三津五郎さんがいい感じに演じています。私は三津五郎さんがまだ八十助さんの初期時代、とても好いていました。最近はなんだか脂の乗り切った男になって(当たり前)どうも“胸焼け”がしていたのですが、久しぶりに“さっぱりめの焼き魚”な彼を拝見しましたよ。
三津五郎さんは昭和31年生まれ。小百合さんは昭和20年生まれ。実際は11も年が違うし、あの時代に小学生の子供がいるお母さんなら年の頃40前後。正直小百合さんでは無理が・・・と思いましたが、小百合さん、実に若々しくお美しい。(ラブレのせいか?水泳か?)全体的に黄色い感じの映像のせいかも、と思っても、ザブんと海に飛び込むシーンで露になる‘二の腕’を見ても膝っこぞうをみてもいや還暦過ぎには・・・見えない。「小百合スト」が夢中になるのは当たり前かも。
際立つ「美・小百合」ですが、他のキャストもいい感じに揃えられています。
特にいつの世にも存在する、親戚中の鼻つまみ(笑)“嫌なおっちゃん(品ナシ、但し人間味溢れる)”を演じる鶴瓶さんが実によろしい(爆)。また、母べえの実の父は元警察署長で、あの時代の父らしい頑固で対面を気にする感じが、中村梅之助さんの年輪を感じる深い演技で見ごたえありました。
梅之助さんのお父さんは、厳しく母べえに離縁を勧めます。
「娘婿が思想犯でひっぱられるなんて、情けない!恥ずかしいわ、わしの立場も考えれ(山口弁)!」
特高(特別高等警察・秘密警察)の話は昭和ヒトケタ生まれの親から聞かされたか、小学校の時の「とっこう」はとっこうでも「特攻隊(生き残り・・・です)」だった担任の教師から聞いたか詳しくは忘れてしまったけれど、‘ひっぱられ’たら、もうそりゃヒドいことされ、男ならまだしも、女の思想犯は文字に書かれない程、人権を無視した‘責め’を受けたらしい、理不尽極まりない責めを受けて獄中死した人が結構いたそうだ、と覚えています。
本人は勿論辛いのですがその家族もそりゃ、本当の鼻つまみの村八分でしょう、でも本来朗らかで気のいい野上家はそんなにヒドい扱いを周りからされてはいなかった様です。
大体「思想犯」ってなんぞや?思う方もありますよね、・・・そう、文字通り「思想自体が犯罪」と判断され検挙された者の事で、HPにも解り易く解説があるので是非ご参考になさって下さい。
今でこそ様々な人が過去を語り、また文章等になっている戦中戦後の時代のあれこれ。
けれど、当時は思想犯の顛末がどんなか、まず大体なんで検挙されたのか、よく解らないままに時が過ぎ、一家の大黒柱が(正直かなり頼りない夫ではあるんですが)不在の不安をまだまだ女一人では生きていけない世の中で、必死に朗らかに清く正しく生きる風情がよく描かれており、話に引き込まれます。
ただ正直私にとって、興味のある作品ではなく、山田監督作品を観る、吉永主演作品を観る、といった感じでした。
映画なのでそれでいいのかもしれませんが、観客の多くが笑うシーンで、私は「笑えない。」と思ったし、泣いているシーンでも「泣けない。」と思いました。
エンディング父べえが、この世を、妻を儚んで語るシーンで締めくくるのですが、「・・・こんな時代に誰がした。」と云うのです。
今の世は言論の自由、民主主義です。が、2007年の世はモノも豊富で暮らしは豊かになれど、やれ隠蔽だ、虚言だ、値上げだ、と世知辛い時代になってきていると思うのです。正しい事を言ったからって評価されるかといえば、そうもでなく虐めにあったり、綺麗に生まれたからといっても、勝手に惚れられて断れば逆恨みであげく殺されて・・・そんな事件がなんだか多くて、とても母べえと父べえに「今の時代に生きれば良かったのに」とは云えない、と思ったからなのです。
しかしながら、間違いなく「あの頃」より「今」の方が何十倍もいいのは確かなのだから、ちょっと大げさに書けば、「あの時代」に死ななくても良かった人の分も一生懸命生きなくては申し訳ない、と思いました。
ま、湿っぽい感想はイイとして、誰かさー、「ポスト小百合」頑張れぇ(柳原加奈子風)っ
長澤まさみちゃんとか石原さとみちゃんはまだ非力なんだから、んーんー、やっぱり今回共演した壇れいさんあたり??松島奈々子さんか伊東美咲チャンかな、もう小百合さんを階段から降ろしてあげたら?
「母べえ」@映画生活
参加した試写会はいつものそれと違って、平均年齢がかなり高い感じ。正直なんで呼ばれたかちょっと不思議な(!!)感じもするくらい。上映中の空気も以前「鉄道員(ぽっぽや)」を見た時に感じた雰囲気と同じでした。
同じといえば、邦画作品で主役に品位やけれん味のない演技を求める時、俳優=高倉健さん、女優=吉永小百合さん、って方程式が成り立って久しい。いい加減に後続の、いや追い抜く位の俳優さんが出てこないと(男優はまだしも)日本映画の未来は暗いかも。
(小百合さんだっていつまでも今の美しさは保てまい。)
↓ここからネタばれ少々あり。
昭和15年、東京。戦争が国家の一大事となっている世の中、野上家は貧しいながらも仲良しで、笑いの絶えない家族。インテリで大学で教鞭を執っていた事もある父・滋(坂東三津五郎)が思想犯として特高に検挙された。残されたのは母・佳代(吉永小百合)、年端のいかない娘二人。家族を案じた滋の教え子山崎(浅田忠信)、滋の妹で美大に通う久子(壇れい)は家族と苦楽を共にしかけがえのない日々を送る。しかし、時代はそんな家族には辛く厳しい。
お母さんを「母べえ(かあべえ)」お父さんを「父べえ(とうべえ)」(子供は○○←名前の略+べえ)と呼びあう現代的な家庭の、寒さに弱いヒョロっとした感じのお父さんを三津五郎さんがいい感じに演じています。私は三津五郎さんがまだ八十助さんの初期時代、とても好いていました。最近はなんだか脂の乗り切った男になって(当たり前)どうも“胸焼け”がしていたのですが、久しぶりに“さっぱりめの焼き魚”な彼を拝見しましたよ。
三津五郎さんは昭和31年生まれ。小百合さんは昭和20年生まれ。実際は11も年が違うし、あの時代に小学生の子供がいるお母さんなら年の頃40前後。正直小百合さんでは無理が・・・と思いましたが、小百合さん、実に若々しくお美しい。(ラブレのせいか?水泳か?)全体的に黄色い感じの映像のせいかも、と思っても、ザブんと海に飛び込むシーンで露になる‘二の腕’を見ても膝っこぞうをみてもいや還暦過ぎには・・・見えない。「小百合スト」が夢中になるのは当たり前かも。
際立つ「美・小百合」ですが、他のキャストもいい感じに揃えられています。
特にいつの世にも存在する、親戚中の鼻つまみ(笑)“嫌なおっちゃん(品ナシ、但し人間味溢れる)”を演じる鶴瓶さんが実によろしい(爆)。また、母べえの実の父は元警察署長で、あの時代の父らしい頑固で対面を気にする感じが、中村梅之助さんの年輪を感じる深い演技で見ごたえありました。
梅之助さんのお父さんは、厳しく母べえに離縁を勧めます。
「娘婿が思想犯でひっぱられるなんて、情けない!恥ずかしいわ、わしの立場も考えれ(山口弁)!」
特高(特別高等警察・秘密警察)の話は昭和ヒトケタ生まれの親から聞かされたか、小学校の時の「とっこう」はとっこうでも「特攻隊(生き残り・・・です)」だった担任の教師から聞いたか詳しくは忘れてしまったけれど、‘ひっぱられ’たら、もうそりゃヒドいことされ、男ならまだしも、女の思想犯は文字に書かれない程、人権を無視した‘責め’を受けたらしい、理不尽極まりない責めを受けて獄中死した人が結構いたそうだ、と覚えています。
本人は勿論辛いのですがその家族もそりゃ、本当の鼻つまみの村八分でしょう、でも本来朗らかで気のいい野上家はそんなにヒドい扱いを周りからされてはいなかった様です。
大体「思想犯」ってなんぞや?思う方もありますよね、・・・そう、文字通り「思想自体が犯罪」と判断され検挙された者の事で、HPにも解り易く解説があるので是非ご参考になさって下さい。
今でこそ様々な人が過去を語り、また文章等になっている戦中戦後の時代のあれこれ。
けれど、当時は思想犯の顛末がどんなか、まず大体なんで検挙されたのか、よく解らないままに時が過ぎ、一家の大黒柱が(正直かなり頼りない夫ではあるんですが)不在の不安をまだまだ女一人では生きていけない世の中で、必死に朗らかに清く正しく生きる風情がよく描かれており、話に引き込まれます。
ただ正直私にとって、興味のある作品ではなく、山田監督作品を観る、吉永主演作品を観る、といった感じでした。
映画なのでそれでいいのかもしれませんが、観客の多くが笑うシーンで、私は「笑えない。」と思ったし、泣いているシーンでも「泣けない。」と思いました。
エンディング父べえが、この世を、妻を儚んで語るシーンで締めくくるのですが、「・・・こんな時代に誰がした。」と云うのです。
今の世は言論の自由、民主主義です。が、2007年の世はモノも豊富で暮らしは豊かになれど、やれ隠蔽だ、虚言だ、値上げだ、と世知辛い時代になってきていると思うのです。正しい事を言ったからって評価されるかといえば、そうもでなく虐めにあったり、綺麗に生まれたからといっても、勝手に惚れられて断れば逆恨みであげく殺されて・・・そんな事件がなんだか多くて、とても母べえと父べえに「今の時代に生きれば良かったのに」とは云えない、と思ったからなのです。
しかしながら、間違いなく「あの頃」より「今」の方が何十倍もいいのは確かなのだから、ちょっと大げさに書けば、「あの時代」に死ななくても良かった人の分も一生懸命生きなくては申し訳ない、と思いました。
ま、湿っぽい感想はイイとして、誰かさー、「ポスト小百合」頑張れぇ(柳原加奈子風)っ
長澤まさみちゃんとか石原さとみちゃんはまだ非力なんだから、んーんー、やっぱり今回共演した壇れいさんあたり??松島奈々子さんか伊東美咲チャンかな、もう小百合さんを階段から降ろしてあげたら?
「母べえ」@映画生活
by bijomaru0330am | 2007-12-26 23:45 | 試写会