「夕凪の街 桜の国」を観る
2007年 06月 07日
日本は世界で唯一原爆の投下された国家です。「そんなの知ってる」って思ってる方、多いと思います。
では、自分の周辺に被爆された方、もしくは被爆2世、3世だよ、って知り合いが居て、その方が自ら「その事」を語って貰った事がある方、何人位いますか?
「夕凪の街 桜の国」を観てきました。
原爆投下から13年後の広島を舞台に、いつ原爆症が発病するかもしれない恐怖を抱えながら生きる女性・平野皆実(麻生久美子)が、同僚の打越から愛を打ち明けられた時に、幸せの一方で被爆した心の傷が再び痛み出し…。(『夕凪の街』)
現代。ある日、皆実の弟(堺正章)・旭が家族に内緒で東京から広島へと向かい、娘の石川七波(田中麗奈)が彼の後をつけていくうちに、七波が自分の家族のルーツを見つめなおしていく…。(『桜の国』) ~~「映画生活」より引用~~
ふたつの違う時代に生きる二人の女性が、今ひとつの物語を紡ぎはじめる、と、HPにも書かれている様に、過去と現代と交錯しながら‘ひとつの大きな出来事’が浮かび上がります。
映画作品的な事を書けば、皆実に「時効」で“三日月さん”を好演、出演作品も目白押しの麻生久美子、その姪で、現代を生きる明朗活発な七波を国際派女優として成長著しい田中麗奈。配役的には魅力的です(ですが大手配給会社には地味、と云われたとか・・・)。しかも皆実の母で七波の祖母・フジミには藤村志保。
女性の心理を丁寧に演じており、観易く理解共感しやすいと思います。
昭和33年、皆実は26歳。観始めてすぐに気がつきました。
「私の母と同い歳なんだ。」
終戦の年昭和20年は、8月6日に広島に、8月9日には長崎に原爆が投下されました。
長崎への投下は実は第二目標で、第一目標は両親の生まれ故郷で、青春のほとんどを生きた小倉市(北九州市)だった、と知ったのは私がかなり大きくなってからです。
「もし小倉に落とされていたら、私は勿論、両親も祖父母もどうだったか。」
広島の1.5倍の威力のプルトニウム爆弾だった長崎。想像さえ恐ろしく、震えた記憶は鮮明です。
「ピカ(原爆)」により父も妹も亡くし、自らも被爆、同じく被爆し生きながらえた母と暮らす皆実。昼間OLをし、帰宅する途中河原で靴を脱ぐ。「靴底が減るから」と。
裸足で帰った自宅は・・・バラックだった。雨が降り、雨漏りがする一間の家。窓には当然窓ガラスなんてない。
昭和33年にそんな状態だったのか?と今更ながらにショックを受け、実家に電話を掛けて聞いてみた。母はちょっと絶句して、こう云った。
「靴はね、あの頃は‘豚革’だったかもしれんよ。」
「広島はね、汽車で何度も通ったけどね、随分長い間ず~とず~と焼け野原でね、33年ならまだまだヒドかったやろうね。」
でも昭和39年にはオリンピックだったじゃない、と云うと、
「そりゃ、またたく間にね。今だって10年あったら相当違うてるやないの。」
どんな家に住んでいたか聞こうかな、と思ったが、原爆が落ちた訳ではなくとも戦後のあの時代思い出したくない事もあるだろう。なんとなくグズグズしていたら、戦後の闇市の話を少ししてくれた。
実は身内に広島出身の伯父がいる。
血は繋がらないから出身は知っていても詳しいことは知らない。母は、「○○おいちゃんならいろいろ知っとるよ。」と云ってくれた(とても電話かけて聞く気にはならないが)。
皆実は明るく美人で気立てもいい娘さん。ちょっとぶきっちょだが、母と二人肩寄せあい生きている。実は皆実には弟(旭)がいて、あまりに小さかったので水戸のおばさん夫婦のところに疎開しており、終戦が来ても迎えに行けず、おば家に養子にいった。
滅多に会えない姉弟。広島弁を話さないズーズー弁の旭。茨城弁をしゃべる息子をみつめる母・フジミの悲しそうな顔。
皆実が会社の同僚・石越(青年期:吉沢悠)に恋心を打ち明けられたのもつかの間、床に伏す。抜ける長い髪。被爆症だ。きっとそうだ。
原爆症・被爆症の本格的な調査は随分たってから、とか聞いたことがあるから、それまでに被爆で亡くなったかどうかは定かでなかったであろう。暗に「ピカに当たったから」と思うだけであったろう。きっとどうしようもなかったと思う。
皆実は言う。
「ピカ落とした人・・・また一人死んだ!って喜ぶやろか。」
姉の死を機会に広島へ戻り、まじめに学び働き、乳幼児期に被爆した女性と世帯をもった旭。転勤で東京へ出てきて、生まれたのが七波だ。
七波にも弟がいて、今は医者。子供時分から喘息気味でよく寝込んだ。七波の母は・・・。
42歳で吐血してすでに亡くなっている。
劇終盤、七波は思う。
「お母さんが42歳で死んだのも、お婆ちゃんが死んだもの、原爆のせいかは判らない(けど)。」
なんで何十年も何代も、重たい十字架背負って生きていかなくちゃならないのだろう。
“夕凪”とは海岸のある地方で、夕方海風から陸風に替わるときの無風状態のこと。
むぅっと熱くて、でもじっと通り過ぎるのを待たないと、風は吹いてこないから黙って我慢するしかないのです。最近はあまり聞かなくなりました。
「夕凪の街 桜の街」は平成16年度、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞・第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した、こうの史代氏の漫画を実写映像化した作品だそうです。
声高に戦争反対とか、むごたらしい映像満載で戦争の悲劇を見せるでもない。でも連綿と続く戦争の爪あとを忘れてはいけないのです。
マンガを読んだ方もそうでない方も、観て欲しい作品です。
世界に向けて配給してほしい、とも思います。
「夕凪の街 桜の国」@映画生活
では、自分の周辺に被爆された方、もしくは被爆2世、3世だよ、って知り合いが居て、その方が自ら「その事」を語って貰った事がある方、何人位いますか?
「夕凪の街 桜の国」を観てきました。
原爆投下から13年後の広島を舞台に、いつ原爆症が発病するかもしれない恐怖を抱えながら生きる女性・平野皆実(麻生久美子)が、同僚の打越から愛を打ち明けられた時に、幸せの一方で被爆した心の傷が再び痛み出し…。(『夕凪の街』)
現代。ある日、皆実の弟(堺正章)・旭が家族に内緒で東京から広島へと向かい、娘の石川七波(田中麗奈)が彼の後をつけていくうちに、七波が自分の家族のルーツを見つめなおしていく…。(『桜の国』) ~~「映画生活」より引用~~
ふたつの違う時代に生きる二人の女性が、今ひとつの物語を紡ぎはじめる、と、HPにも書かれている様に、過去と現代と交錯しながら‘ひとつの大きな出来事’が浮かび上がります。
映画作品的な事を書けば、皆実に「時効」で“三日月さん”を好演、出演作品も目白押しの麻生久美子、その姪で、現代を生きる明朗活発な七波を国際派女優として成長著しい田中麗奈。配役的には魅力的です(ですが大手配給会社には地味、と云われたとか・・・)。しかも皆実の母で七波の祖母・フジミには藤村志保。
女性の心理を丁寧に演じており、観易く理解共感しやすいと思います。
昭和33年、皆実は26歳。観始めてすぐに気がつきました。
「私の母と同い歳なんだ。」
終戦の年昭和20年は、8月6日に広島に、8月9日には長崎に原爆が投下されました。
長崎への投下は実は第二目標で、第一目標は両親の生まれ故郷で、青春のほとんどを生きた小倉市(北九州市)だった、と知ったのは私がかなり大きくなってからです。
「もし小倉に落とされていたら、私は勿論、両親も祖父母もどうだったか。」
広島の1.5倍の威力のプルトニウム爆弾だった長崎。想像さえ恐ろしく、震えた記憶は鮮明です。
「ピカ(原爆)」により父も妹も亡くし、自らも被爆、同じく被爆し生きながらえた母と暮らす皆実。昼間OLをし、帰宅する途中河原で靴を脱ぐ。「靴底が減るから」と。
裸足で帰った自宅は・・・バラックだった。雨が降り、雨漏りがする一間の家。窓には当然窓ガラスなんてない。
昭和33年にそんな状態だったのか?と今更ながらにショックを受け、実家に電話を掛けて聞いてみた。母はちょっと絶句して、こう云った。
「靴はね、あの頃は‘豚革’だったかもしれんよ。」
「広島はね、汽車で何度も通ったけどね、随分長い間ず~とず~と焼け野原でね、33年ならまだまだヒドかったやろうね。」
でも昭和39年にはオリンピックだったじゃない、と云うと、
「そりゃ、またたく間にね。今だって10年あったら相当違うてるやないの。」
どんな家に住んでいたか聞こうかな、と思ったが、原爆が落ちた訳ではなくとも戦後のあの時代思い出したくない事もあるだろう。なんとなくグズグズしていたら、戦後の闇市の話を少ししてくれた。
実は身内に広島出身の伯父がいる。
血は繋がらないから出身は知っていても詳しいことは知らない。母は、「○○おいちゃんならいろいろ知っとるよ。」と云ってくれた(とても電話かけて聞く気にはならないが)。
皆実は明るく美人で気立てもいい娘さん。ちょっとぶきっちょだが、母と二人肩寄せあい生きている。実は皆実には弟(旭)がいて、あまりに小さかったので水戸のおばさん夫婦のところに疎開しており、終戦が来ても迎えに行けず、おば家に養子にいった。
滅多に会えない姉弟。広島弁を話さないズーズー弁の旭。茨城弁をしゃべる息子をみつめる母・フジミの悲しそうな顔。
皆実が会社の同僚・石越(青年期:吉沢悠)に恋心を打ち明けられたのもつかの間、床に伏す。抜ける長い髪。被爆症だ。きっとそうだ。
原爆症・被爆症の本格的な調査は随分たってから、とか聞いたことがあるから、それまでに被爆で亡くなったかどうかは定かでなかったであろう。暗に「ピカに当たったから」と思うだけであったろう。きっとどうしようもなかったと思う。
皆実は言う。
「ピカ落とした人・・・また一人死んだ!って喜ぶやろか。」
姉の死を機会に広島へ戻り、まじめに学び働き、乳幼児期に被爆した女性と世帯をもった旭。転勤で東京へ出てきて、生まれたのが七波だ。
七波にも弟がいて、今は医者。子供時分から喘息気味でよく寝込んだ。七波の母は・・・。
42歳で吐血してすでに亡くなっている。
劇終盤、七波は思う。
「お母さんが42歳で死んだのも、お婆ちゃんが死んだもの、原爆のせいかは判らない(けど)。」
なんで何十年も何代も、重たい十字架背負って生きていかなくちゃならないのだろう。
“夕凪”とは海岸のある地方で、夕方海風から陸風に替わるときの無風状態のこと。
むぅっと熱くて、でもじっと通り過ぎるのを待たないと、風は吹いてこないから黙って我慢するしかないのです。最近はあまり聞かなくなりました。
「夕凪の街 桜の街」は平成16年度、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞・第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した、こうの史代氏の漫画を実写映像化した作品だそうです。
声高に戦争反対とか、むごたらしい映像満載で戦争の悲劇を見せるでもない。でも連綿と続く戦争の爪あとを忘れてはいけないのです。
マンガを読んだ方もそうでない方も、観て欲しい作品です。
世界に向けて配給してほしい、とも思います。
「夕凪の街 桜の国」@映画生活
by bijomaru0330am | 2007-06-07 23:45 | 試写会